当日の朝
私が入院したのは、女性と小児の混合病棟ということで、夜中に女の子が「ママ、ママ、ママがいい」と泣き叫んでいて、かわいそうで眠れなかった。そういえば、私の姪もそうやって暴れていたなあと懐かしく思いだす。今は中二病になり、クールな女の子へと成長してしまったけれど。
今日も昨日に引き続き忙しい。朝6時ごろには点滴のルート確保を(2回目で入った)した。そして弾性ストッキングを渡され、四苦八苦しながらなんとか装着したあと、ドクター栄作が呼んでいるということで、外来に赴く。そこには初めて見る女医さんがいて、栄作と2人で私のがんの超音波画像を見ながら、あーだこーだと話している。そこに一人のぬぼーっとした男性が現れる。え?誰?と思ったら、形成外科のイケイケ先生だった。手術の当日だというのに、まだ腹くくってないのか、暗い顔で何回もため息をつき、ブツブツ言いながら、私の胸に落書きをして去っていった。
朗報!
手術前の検査・確認も終わったし、やれやれと思って病室に戻る。と、そこにまたドクター栄作が現れる。
そして「いずみんさん、温存でいけるかも」と言い出した!えーー!はちゃめちゃに嬉しい!右胸取らなくていいのなら、手術なんてお茶の子さいさい。私は手術というより全摘が嫌だったんだと思い知る。
とにかく、温存できることが嬉しくてたまらず、気分が、一気に明るくなる。もしかしてだけど
イケイケ先生が、再建が難しいとかなんとか駄々こねてくれたのかな?ありがとう、イケイケ先生!
手術室へ
私の手術入室時間は12時。お昼ご飯の時間なのに、申し訳ないねえ。夫も駆けつけたが、術式が変更になったと聞き、不審な顔をしていた。
歩いて手術室にむかう。眼鏡を外していったので何も見えない。手術室の前で夫にバイバイする。
じっと座って待っている夫も大変よね。すまん。
手術室では、昨日病室に来てくれたオペ室ナースさんがいて、挨拶してくれる。執拗に名前と生年月日と手術する側を聞かれる。確認が終わると、ちんまいオペ台に寝る。あったけー。寝るところが暖かいとこんなに幸せな気持ちになれるんだねーと思っていたら、ひょこっと男の人が顔を覗かせ「麻酔科です、よろしくお願いします」と挨拶してくれる。あれ?トキ先生じゃない?よ見えないけど、トキ先生にしては元気だったような…ラオウまでは行かないけど、その真ん中のケンシロウのような?トキ先生からケンシロウ先生に代わった?でもだったら昨日の受診はなんだったの?ケンシロウ先生は見習い先生にいろいろ説明しながら準備している。うん、ケンシロウとバットだね。もしかしてバットが私の麻酔をかけるのかな?
まあ、温存になったし、いいか。医療の進展のため、この身を捧げようぞ。
さて、いよいよ私の点滴からまず眠る薬が入れられる。白い液体が流れるのを見て、不謹慎ながら「ミルクを飲ませて」という、マイケルジャクソンの最後の言葉を思い出した。ケンシロウ先生から「眠くなりますよー」と言われてすぐ、天井がグルグル回り出したので「天井が…」と言ったら、私を取り囲んでいた医療スタッフが一斉に「うん?」と耳を傾けてきたのがおかしくて「ふふ」と笑ってしまった。そういえばドクター栄作はいなかったな。と思っていたら「いずみんさん!」と起こされる。「え?」と思ったら「終わりました、管抜きますよ」と言われて驚いた。体感2秒だね。手術時間は。
病室へ戻る
挿管チューブを抜いて、ベッドに移してもらいそのまま病室に戻る。夫の姿が見えたので手を振る。
夫は面会時間1時間、そばにいてくれてから帰っていった。夫が帰ったのが16時頃なので、手術は3時間くらいかかったのかあ。2秒ではなかったのね。そして心配していた脇のリンパ節転移もなかったと言われて、安心した。
まだまだ麻酔の影響でぼーっとしていたので、そのままウトウトする。傷は全然痛くないのだけど、上唇の左側と喉がすごく痛くて、声を出そうとしても、場末のスナックのママさんのような酒枯れした声しか出ない。挿管チューブの影響ねと思いながら、次の日まで眠り続けた。